錦織健プロデュース・オペラVol.6記者懇親会

 

 2015年2月から3月にかけて、錦織健プロデュース・オペラ Vol.6 モーツァルト「後宮からの逃走」がサンシティホール公演のほか、全国で8公演にわたって開かれます。公演に先がけて10月23日、東京・銀座のロイヤルクリスタルカフェで、その記者懇親会が開催されました。その模様をご紹介いたします。
 

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 出席者はプロデューサーでありベルモンテ役でもある錦織健、コンスタンツェ役の佐藤美枝子、ブロンデ役の市原愛、太守役の池田直樹の各氏。「少しでも多 くの人にオペラを身近に感じてほしい」として始まった錦織健プロデュース・オペラも今回で6回目を迎える。会場は「今までこんなに大勢の方が参加してくれ たことはなかった」(錦織さん)というほどの盛況ぶり。出演者のみなさんが抱負を語ってくれた。

 

錦織「オペラを見に来てくれる人をもっと増やしたいという切実な願いから、このシリーズが始まりました。コンセプトは『旅のオペラ一座』です。日本人の歌手はパワーではドイツ人やスラブ系にはかないませんし、美声ではイタリア人やラテン系にはかなわない。でもチームワーク、共同でなにかを作りあげるときにとんでもない力を出すのが日本人です。アンサンブル・オペラなら勝ち目がある。そこでチームワークが生かせる演目にしぼり、オペラ初心者で も違和感なく楽しめることを目指しながら、しかし絶対にクォリティを落とさないようにと考えて、この企画が始まりました。今回もすばらしいメンバーが集まって、8回もの公演を開けることを嬉しく思います」

 

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佐藤「錦織さんの一座に加えていただいて光栄に思っています。以前から内容の濃い稽古で、いい公演をしていると聞いていましたので、ずっと仲間に入れてほしいなあと思っていました。錦織さんとはこれまでに共演を重ねてきて、本当に尊敬できる方だと思っています。コンスタンツェ役は難しい役柄 ですが、念願の役でもありますので、がんばりたいと思います」
 

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市原「このプロジェクトは学生の頃から存じあげていましたが、まさか私自身にご縁があるとは思っていませんでした。私はずっとドイツにいた のですが、ドイツでは『後宮からの逃走』は人気のある演目で、どこの歌劇場でもよく上演されます。ブロンデ役はキャラクターも自分にあっているので、いつか歌いたいと思っていた役ですので、今回このような機会を得て光栄に思っています」
 

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池田「座長の健ちゃんはすばらしい男です。名前が知れる前からのつきあいですが、その頃と今とまったく変わりません。座長はみんなが気持ちよく仕事ができることを最優先に考えてくれるので、これまで3回の公演をしてきて一度もだれも不愉快に感じたことはないと思います。練習は楽しいですよ。私はセリフだけの役柄ですから歌いませんが、5人の歌手が歌う役はみんな超絶技巧が求められます。とても難しい作品ですが、かならず見事な歌唱でみなさんを魅了するにちがいありません」
 

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 出演者が口々に錦織健座長への信頼を口にして、会見は和やかなムードに。オペラをプロデュースするという仕事は「ただただ楽しい」という錦織さん。歌うことには苦しみもあるけれど、オペラの企画はひたすら楽しく、「唯一苦しいのはチケットを売ることだけ」なんだとか。万人が楽しめるオペラを目指すというだけあって随所に工夫が凝らされているが、その一つは台詞のみを日本語にするということ。

 



錦織「私がデビューした頃は、イタリア・オペラをほとんど日本語で歌っていました。そんな時代もあったんです。今の時代から見ると滑稽に思われるかもしれませんが、お客さんとの直接のやりとり、ギャグを言ったらとっさに笑いが帰ってくるという敏感な反応がありました。いつの日か、また訳詞上演がはやる日が来ないとも限りません。もし劇団四季が英語で歌っていたら、今ほどのロングランはできなかったでしょう。今回は歌は原語で、台詞は日本語です。レチタティーヴォまでを日本語にするとなれば歌手仲間の間でも軋轢が起きるでしょうが、台詞なら日本語でも受け入れられます」

 

 今でこそどんなオペラにも字幕が付くようになったが、字幕装置の普及以前はお客さんにとってオペラの原語上演の「言葉の壁」は恐ろしく高く、だからこそ日本語歌唱の意味も大きかった。字幕の普及のおかげで原語歌唱でも容易にストーリーがわかるようになったが、しかし言われてみれば「ギャグに対するダイレクトな笑い」など、字幕によって失われるものも少なくないのかも。
 今回の公演では「後宮からの逃走」に「ハーレムから助け出せ!」という副題が添えられている。この副題の発案も錦織さん本人が付けたものだという。なるほど、たしかに「後宮からの逃走」ではどんな物語か、初めて見る人にはわかりづらい。これには納得。
 本番に向けての期待感をぐっと高めてくれる会見だった。良質で楽しく、そしてモーツァルトの魅力をたっぷりと伝えてくれる「後宮からの逃走」が実現することだろう。

 



取材・文:飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)